「詩の虚言朗読会」は
主宰者、山岡遊が故郷の高知への帰還のため最終回となった。
会場は、埼玉県与野市と遠隔地ながら
毎回沢山の入場者を集め、
山岡氏らしい独特の構成で盛り上がった。
終演を惜しむ人も多い。
まず山岡氏の提案で集まったのが
杉本真維子さんと私の3名。
新宿駅近くのやたら賑わう小さな店で
マッコリを飲みながら山岡氏の怪気炎を眺めた。
山岡氏は、加藤温子さんの紹介。
どういう事件だったのか、詳しくは忘れてしまったのだけれど、
山岡氏が清水旭と大喧嘩、
ついては貴女の所にも山岡非難の声が届くだろうが、彼は正しい。
ついでに言えば、彼はいつも正しい、絶対に正しい……
という極めて長い電話であった。
高円寺界隈の自転車置き場で二人は喧嘩したらしい。
清水氏はチョコチョコ悪事をやる人で、
実は私も便乗したこともある悪事好き。
ただ清水氏は逃げ足が遅い。
悪事がたちまち露見してアタフタ、逃げずに逃げられず……であった。
私も助ければいいものをそれはせず……
苦労する清水氏を遠望して、ま、喜ぶといったタチの悪さであった。
さて最終回、
イガイガボンからの出し物は「大菩薩峠」。
従来、机竜之介は
長身痩躯も頑健男、十亀脩之介が演じていたが
十亀氏が海外公演のため、渡辺剛己氏に来ていただいた。

渡辺氏は写真のとおり、ずんぐりむっくりで、
いかにも不似合いと不安であったのが、予想外の圧倒的な名演で驚いた。
音響を最大限にアップ。
徹底的に過激に踊りまくって唖然。
独自に詩編を解釈したわけで、こういう解釈もあったのか、と驚いた。
元々は中本道代さんの「大菩薩峠考」という評論が起点での詩編。
自作ながらこの詩編を私自身は理解できていなかったわけで、
最初の初演の時に中本道代さんから注意を受けたもの。

希代の不死身の殺人鬼、机竜之介の事、
いくらでも切り口はあるのだろうが、
結局はこれは過激な愛の詩編、
竜之介の「愛」を抽出したものだったのではなかったか?と
遅ればせながら気づかされた。渡辺氏のおかげである。

渡辺氏は元々は舞踏家というよりは役者。
万有引力の舞台監督も経験というので、
ひょっとして寺山修司的な解釈だったのだろうか?
次に上演した「変形型天虫恋模様」
これは恋愛痴情殺傷事件。

作詩は「大菩薩峠」と同時期。
こちらは強力な、いわば八百屋お七タイプの女性を
舞踏家、安田理恵氏に熱演していただいた。
双方ともが、一切の観念、理念、イデオロギー抜きの
猥雑な江戸時代後半が舞台に
ひたすら「愛」また「生命」の核へと驀進する世界なわけで、
なぜとなく大菩薩峠作者、中里介山をかいま見たような気がした。
最後は同じく中里介山「大菩薩峠」ファンの井川博年氏の賞賛をいただいて幕。

山岡氏の年間の朗読会の熱誠を称えて、ここに熱く感謝したい。

なお、
現在、山岡遊氏は下記住所に居住。
元気に張り切っているようだ。